ギュッと五臓六腑

アニメ『龍の歯医者』の考察メモ

ありがとう僕の龍の歯医者

長編アニメ『龍の歯医者』を舞城王太郎ファンが観るとこう考察できます、のメモを残しておきます。
後世に語り継がれる作品になるといいなぁ。

以下、特に明記のない引用は
NHKアニメワールド 龍の歯医者 スペシャル 「龍の歯医者の世界とは」
の設定資料集が出典。

龍とは

龍=人間の心

常に空を飛び続けており地上での姿を見た者はいません。

=人間の心は誰も直接見ることができない

巨大な口に並ぶ三列の歯が特徴で、この歯こそが龍の力の源であり唯一の弱点でもあります。

=人間を動かしているのはその心であり、止めるのもその心である

龍は歯で鳴(泣?)くんだ
――劇中 野ノ子 セリフ

=人間が感情を露出させるとき、それは心から出てくるもので、頭で考えられたものではない

(↑このセリフは

逆のことはあっても、愛情によって言葉は演出されない。
――『好き好き大好き超愛してる。舞城王太郎

を彷彿とさせて思わずよだれが出る。)

虫歯菌とは

虫歯菌=人間の感情

各虫歯菌は人間に起こりがちな感情の種類や心の動きの見立てではないかと。

ヨナキ虫 (中略)夜中に走り回り日の出にはどこかに消えてしまう。

=夜になると湧いてきて朝になると消える鬱

アブク虫 歯の中で最も多く見られる虫歯菌。湧き出す泡の様に増え歯医者たちの手を焼かせる。

=日常的に生まれる雑多な感情

ヒカリ虫 歯の表面に現れ辺りを照らす虫歯菌。基本単独で行動し群れで見つかる事は非常に稀。

=ぽっと生まれるポジティブな閃き

ヤジリ虫 (中略)不用意に触ろうとすると刺してくる事があり注意が必要。

=自分を責めて傷つけようとする感情

カブリ虫 動物の様に懐いてくる大型の虫歯菌。激昂すると姿を変え襲ってくる。

=自分の感情が思いもよらない方向に変質することがある

天狗虫 人を襲う強力な虫歯菌。歯の中を自在に動き回る力を持っている。

=自己中心的な考え

龍の歯医者とは

感情は良くも悪くもその人間に影響を及ぼす自家中毒の性質を持っている。「自分は今落ち込んでるなぁ」と自覚できたなら原因を探って除去できるのが一番いい。

龍の歯医者=生まれた感情を処理してくれる/救ってくれる存在
それは例えば友人や恋人、家族。

ニョロリ虫 (中略)近寄ると絡みついて歯医者たちの作業の邪魔をする。

=助けてくれる周囲の存在に対して抱くネガティヴな感情

ムクロ虫 死骸を食べる虫歯菌。食性が判明している、という点で菌の中でも変わり種である。

=大切だった誰かの存在であれ最後には忘れ薄れていく

龍の歯医者になるためには特別な試験を受ける必要がありますが、通過できる者は極まれです。

=人間は誰とでも仲良くなれるわけではなくて相性がある

こいつとなら仲良くなれるかも、という期待から始まる人間関係もある。

少女は選んでここに来た。
――龍の歯医者 キャッチコピー

=龍を助けてあげたいという意思をもって龍に関わる者が野ノ子

少年は選ばれてここにいる。
――龍の歯医者 キャッチコピー

=龍側の助けてほしいという意思で龍に関わらされる者がベル

龍の歯医者たちは特殊な道具をいくつか使用しますが、その代表的なものが「龍爪」と呼ばれる仕事棒です。龍の爪や皮膚から作られたもので、龍の力を宿すため虫歯菌への攻撃に有効です。

=自分の心から生まれた感情を処理するには自分の力が不可欠

但しこれは龍の力の一部であり、龍から離れるとその力は失われてしまいます。

=自分の感情が他者に影響を及ぼした後に処理/吸収をしてそれを無かったことにするのは不可能である


考察終わり。


清水富美加さんの声優よかった。あんな声をした方なのね。
後編最後のベルの独白が舞城節で、舞城ファンとしては大満足だった。
後編のベルは臆病すぎて観ててイライラしたけど。野ノ子に笑いかけられただけで頬染めるのはチョロすぎ。

あっあと後編最後の「美しい…」ってやつも『好き好き大好き超愛してる。』で同じテーマを扱っててよだれが出ました。

(こっそり追記:

虫歯菌の、特にヒカリ虫が『好き好き大好き超愛してる。』に出てくるASMAを思い出させるし、柴名の「生きている以上、いつも何事かを決めるんだよ」というセリフは舞城の短編『みんな元気。』で同じテーマを扱ってるし、ベルの最後の独白の馬のモチーフは舞城が『山ん中の獅見朋成雄』や『獣の樹』で使ってるし、舞城ファンの私は『龍の歯医者』の中に舞城要素を見つけてよだれを垂らす。ネットでこのアニメの感想を読み漁ってるいると、エヴァファンはエヴァ要素を見つけてよだれを垂らし、鶴巻監督ファンは鶴巻要素を見つけてよだれを垂らし、つまり〈このアニメに関わった誰か〉ファンは〈このアニメに関わった誰か〉要素を見つけてよだれを垂らしている。嬉しい。それぞれの要素を潰さないよう絶妙なバランスで成り立っている。ありがとう僕の龍の歯医者。)

このアニメ『龍の歯医者』長編版は、ただいま準備中の小説シリーズ『龍の歯医者』で描かれる大きな物語の、ほぼ冒頭、主人公野ノ子の長くて短い歯医者人生が始まって半年目くらいのところで起こるお話です。
――NHKアニメワールド 龍の歯医者 制作にあたって 原作・脚本 舞城王太郎 より

小説シリーズ超楽しみ。

龍の歯医者が激アツだったあなたには舞城の小説『SPEEDBOY!』がおすすめ。
オムニバス形式で舞城文体に慣れてなくても読みやすいと思うよ。