映画『 ちはやふる 上の句』はスクールカースト最下部だった俺達を救う物語

みんな!エスパーだよ!』然り『ライチ 光クラブ』然り、漫画が原作の邦画には期待せずに臨むことにしているし観終わってみても実際にそれで正しかったなぁと感じること必至だったのだけど『ちはやふる 上の句』は完成度高いし切なくて泣いてしまうしで例外だった。


「ちはやふる -上の句・下の句-」予告

あらすじ

綾瀬千早(あやせちはや/広瀬すず)、真島太一(ましまたいち/野村周平)、綿谷新(わたやあらた/真剣佑)の3人は幼なじみ。新に教わった“競技かるた”でいつも一緒に遊んでいた。そして千早は新の“競技かるた”に懸ける情熱に、夢を持つということを教えてもらった。そんな矢先、家の事情で新が故郷の福井へ戻り、はなればなれになってしまう。
(中略)
高校生になった千早は、新に会いたい一心で“競技かるた部”創部を決意、高校で再会した太一とともに、部員集めに奔走する。
呉服屋の娘で古典大好き少女・大江奏(おおえかなで/上白石萌音)、小学生時代に千早たちと対戦したことのある、競技かるた経験者で“肉まんくん”こと、西田優征(にしだゆうせい/矢本悠馬)、太一に次いで学年2位の秀才・“机くん”こと、駒野勉(こまのつとむ/森永悠希)を必死に勧誘、なんとか5名の部員を集め、創部に成功。
http://chihayafuru-movie.com/sp/story/index.html

机くん

陰気な眼鏡キャラ『机くん』、「百人一首を知らない」「部活なんて暑苦しくて無駄だと思ってる」「団体行動は苦手」「周囲への劣等感」を具現化させたキャラで、感情移入しまくり。彼の、いわゆる”オタク”と呼ばれてしまうタイプの人間独特の卑屈な一挙手一投足が理解できてしまう。最初は千早達に冷たい態度をとってるのに目線がどんどん満更でもなくなって温かみを帯びてきてウーンこんな俺でもみんなのためにできることって……そうだあれだ!と一歩間違えば空回りな貢献を試みるところとか、自分のハリボテの実力なんぞでは皆の期待には応えられないと分かった瞬間にカッと恥ずかしくなって全部放り投げて逃げ出してしまいたくなるところとか、そうならないためにいつもは予防線を張って嘲笑すら涼しい顔で受け流(せるように努力)しているのに、いざイベント事で頼られたら悪態を吐きながらも頑張ってしまうところとかね。思い出したくない記憶が重なって辛いけど、その分だけ愛しさがこみ上げる。

「青春全部かけてから言いなさい」

千早達にとっての師匠である原田先生が、「青春全部かけたって俺はあいつに勝てない」と諦めたようにつぶやく太一に返すセリフ、

(青春全部)かけてから言いなさい。

予告の時点で言葉としての強さにビビッと来てたけど、それまでのストーリーを追ってから聞くと時計が一気に巻き戻るみたいな衝撃が来る。太一の心の闇を払うための唯一の希望なのだよね、「とにかくやり続ける」ってことが。これ、とても汎用的な名言なので、実生活で「どうせ無理だよね」って目をそらしてしまいそうになってしまった時にぜひ反芻したい……。

音楽

音楽での静と動のコントラストが上手で、鳴ってほしい/ほしくないところでちゃんと鳴っている/いない。千早のカルタ集中タイムには、カルタに集中しすぎて、人声は無視、物音しか聞こえない、という表現。劇場全体がシーン……ってなって固唾を呑んで千早を見守っていた。
BGMの種類自体は少ないと思うのに、使い方のおかげで飽きずに楽しめた。切ない場面でかかるやつが好きだったのでサントラほしいなぁ。

アニメーション

百人一首の札の情景の説明でアニメーションが使われていて、個人的には実写映画に非実写要素を混ぜられると、どうしても違和感が出ちゃうよなぁと常々思っていたのだけど、今作ではむしろ華やかさをもたらしてくれていて既成概念がぶち壊されて感動。特にオープニングがね、めまぐるしくて目が離せなかったし、ずっと観ていたかった。デジタルでレトロを表現することについての傑作アニメーションで花丸あげたい。(と思ってよくよく調べてみたらファンタジスタ歌磨呂さんがアニメーションディレクターを担当していてギョエーこれが噂の!)

物語の完成度

物語に論理としての齟齬がないので安心して観ていられた。千早の好きな『新(あらた)』の、覇者の余裕と器量の深さと、存在感を誇張されすぎもせず静かに遠くにいてくれてるんだよって感じで、そりゃ千早はこれ好きになるだろうなぁ/太一も嫉妬するよなぁって納得できるし、千早や太一はカルタの実力があるはずなのになんで苦戦してしまうの?という疑問とそれに対する答えがちゃんと用意されていて、その解決策にも頷ける。全体の軸もぶれていなくて、とどのつまり机くんと太一が救済される作品だ。前後編の前編にあたるわけだけど、今作だけで完結していた。観終わった後にはすがすがしく「さて早く後編(『ちはやふる 下の句』)を観たいね!」と言える。

敵キャラ

北央高校の二人がとても愛らしい。ドSの須藤と、若いころの清竜人に似てるなって感じのやつ。特に後者の方のセリフがいちいちおもしろくてずるかった。

最後に

広瀬すずの演技がわざとらしかったり(特に太一におんぶされてる時)、千早・新・太一の幼少期の雪合戦のシーンがお涙頂戴すぎて冷めたりもしたけど、怒涛の勢いで引き込まれて感動させられて、邦画って悪くないなって思えるし、競技中の気持ちよさなんて何回でも観たい。もし原作を読んだうえで臨んでいたら、ネガティブな評価を下していたのかもしれないなぁとは思う。原作を読み済みな人と、この映画について語り合ってみたい。