猫のことと私のこと

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兄が友人からもらってきた犬を我が家で飼うことになった。元々いた半野良の猫は毎晩押入れで寝ていたのにとんと寄り付かなくなって、夜通し歩いているのだろうか、少しぽっちゃりしていたのが痩せてしまった。風の強い日も雨の降る日も猫は不在だ。犬が吠える。犬が悪いわけではなくて、犬の吠えるのを許す家族が悪いのだ。それでも犬を手放しに好きだとは、私は言えないし言いたくない。泣きながら学校から帰ってきて、リビングのソファの上で液体のようにぬるるんと寝ているツチノコみたいな黒猫を見て、私は救われていたのだ。

母に退学の意思を伝えた。入学を決めたときの私を責められた。私はそれをいなす。
「過去は過去で、そのときはそれが正しいと思ってたんだよ」
母に言ったつもりで、自分自身にも言い聞かせていた。
「そのときはそれが正しいと思っていた」。この今の、学校を辞めるという選択も、きっと一瞬だけ光る正しさであって、未来にはこの選択を後悔するのだろう。選ばなかった未来に憧れるのだろう。あのときもっと頑張れば。あのとき耐えていられれば。

でももう駄目なのだ。お母さんの「おかえり」に涙を袖で拭うのも、お母さんが毎日つくってくれるおにぎりをひとりで食べるのも、お母さんの淹れてくれたお茶で精神安定剤を胃に流し込むのも、もう嫌なのだ。兄に理不尽に怒鳴られ、父の我儘をため息でやり過ごし、母の自己犠牲の様を見守るのも、もう嫌なのだ。

昨日、久しぶりに私の部屋で一夜を過ごした猫は、まだ青い空気の残る朝の6時ごろ外に出かけていった。昼間から続いていた強い風は夜が明けてもまだ庭の木々を揺らしていた。桜はとっくに散って、緑の葉が音を立てる。もう行かなくちゃ。