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養命酒の蓋が開けにくい。強く締めた覚えもないのに全然開かない。厄介なことに養命酒は瓶入りで、瓶には持ち手がなくて、引っかかりがないから左手による抑えが効かない。健康になるために養命酒を飲みたいのに、ある程度の健康性、具体的には瓶の蓋を開けるくらいの握力がないとそれを飲むことができないのは残酷すぎる。

晩ごはんの直前に、母親がスピリチュアルな兄に喧嘩をふっかけていた。エブリデイ食事を担当する母親と、偏食がひどい兄。兄は自分の偏食に悪びれる様子もなく母親のメニューを不躾に拒否する。「今日のごはん何?」「オムライス」「あーいいわ、他になんかないの?」……。
母親の言い分としては「その日の気分で食べれるものが変わるのは困る、夕方の買い出しの前にその日食べたいものを連絡しろ、それができないなら自分で作れ、もしくは外に食べに行け」という全うなものなのだけど、その言い方が悪い。あんたのためだけに他の家族と別のメニューをわざわざ作らなければいけない私の身になれ、家事をしなければいけない私と違ってあんたは仕事から帰ってきたらどうせ暇なのだから自分のことは自分でやれ、という言い方をするものだから、自己承認コンプレックスを抱えている兄は「俺の何が悪いっていうの!?なんで俺だけ怒られなきゃいけないの!?」とキレて話が進まない。お乳が恋しいママボーイ。
兄は自分で料理をしたことがないから偏食ママボーイ相手に料理をする負担を知らないのだ。そしてどうして料理をしたことがないのかというと父親が家事を一切しない人だからだ。親子あるあるテンプレ通りに父親の背中を見て25歳になってしまって、自分がいかに狭い世界で暮らしているかにすら気づけていないのだ。あげく父親コンプレックスを抱えてしまって「どうして(父親のことは許して)俺にばかり叱るの!?」。まるで小学生。

そんな言い合いがあったことを感知していない父親とうつ病ニートの兄がそれぞれの自室から出てきて母親の作った料理を貪り、それぞれの自室に戻る。スピリチュアルな兄と母親の間の確執を広げたまま晩ごはんが終わり、母親は自分の姉との電話のために部屋に引きこもった。
我が家でしばしば見られる現象なのだが、どんなにリビングが散らかっていても父親と兄2人は見てみぬふりをする。知らぬ存ぜぬ。今日もやつらが食い散らかしたお椀が食卓とこたつの上に放置されていた。母親は電話に忙しくリビングに戻ってこない。重い腰をあげて食器を洗っているとニートの兄が言う。「おまえ明日もバイトだろ早く寝ろよ」。死ね。自棄になって飲もうとした養命酒の蓋は今日も簡単には開かない。